いま、ここに示したものは、ひとつの文章が三つの章、ひとつの章は三つの節、一節は三つの句、一句は三個の語、一語は三個の文字、一字は三個の字画、一字画は起・送・終の三個の部品、起・送・終筆はさらに微小な〈筆蝕〉の集積から成立するという単純な図式にすぎない。実際にはもっと複雑な構造で成立している。

しかし、この単純な例でもひとつの詩文は鼠算式に七二九の字画から成立し、起筆、送筆、終筆の単位は二一八七という厖大な単位にのぼる。

ひとつの字画は実際には起・送・終の三単位によってできているのではなく、無数の質の〈筆蝕〉と〈筆蝕〉の変化率から構成されていることを思えば、「書く」ということ、つまり図上の文字という水位以下の部分、とりわけ無数と考えていい〈筆蝕〉が、ひとつの詩文にどれほど重大な意味をもっているかは容易にわかるはずだ

SHISHOUSETU - 石川九楊『筆蝕の構造』
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